—老舗臓物店のディディエ&アニック夫妻—
この店も私たちの世代で終わり。 パッシー街の商店街に48年前から、親子三代にわたって臓物屋を営むディディエさんと妻のアニックさん。パリで10軒にも満たない臓物屋の一つで、16区ではここだけ。
「最近の売れ筋は子牛。お客さんの90%がシニア世代だから、料理に手間のかからない、柔らかく噛みやすい素材でなくちゃならないんだ」とディディエさん。ランジスから買い付けた塊肉を扱うディデイエさん、注文が入ってから店頭の臓物をさばいていくアニックさん、と二人の役割分担がはっきりしている。人差し指の延長のようにゆうゆうと包丁を操る姿に、つい見とれてしまう。「10年前に臓物屋のディプロムCAPがなくなって以来、なり手が激減し、ここも私たちの世代で終わるでしょうね」と寂しそうな表情のアニックさん。毎朝4時起き、週休一日、70時間労働のスケジュールをこなすお二人である。
Triperie Mussard : 35 rue de l'Annonciation 16e
Le Pharamond 1832年創業の店でカーン風トリップ料理を満喫した!
1832年創業、深紫のビロードのカーテン、壁に飾られた金縁の鏡、上階のプライベートサロンと、重厚な雰囲気がぷんぷん漂う。
ここでは前菜をとばして、メインの名物カーン風トリップの煮込み(21€)を注文する。友人は南西部コレーズ県のBrive La Gallarde産アンドゥイエット(29€)。ふと周りを見渡すと、恰幅のいい紳士や不倫風のカップルなど、店内は独特の熱気に包まれている。さて、肝心のトリップは、ゆうに三人前はあるココット鍋に、ミノ、ハチノス、センマイといった牛の胃袋を9時間かけて煮込んだもの。ふわっとカルバドスの香りが立ち上り、琥珀色のスープから、とろっとしたような、ぐにゃとしたような胃袋が顔をだす。うまい! アンドゥイエットの気前の良さだって半端じゃない。400グラムで25センチの大きさ! 香ばしく炭火焼きされ、脂身が少なくプリプリとした歯ごたえ。カリカリ・ホクホク・ハフハフと三拍子揃ったフライドポテトとの相性も抜群だ。この時点でお腹ははちきれそうだったが、デザートのクレープ・シュゼットを欲張る。たっぷりのバターにカラメルとグランマルニエを絡めてフランベされた濃厚な甘さが体中に広がる。
ここは昨今のヘルシー志向を笑い飛ばし、カロリーなんて微塵も気にしない食道楽の集まる店だと実感。昔風の美食流儀を貫くこの店には、きっちりお腹をすかせて出かけたい。