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笠原十九司・都留文科大学教授
〈南京大虐殺〉についてインタビュー
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質問:「南京虐殺」の問題は、現在でも日本と中国の間に政治的緊張をもたらしていますが、70年たった今日、日本国内ではこの問題に触れることが困難になっている状況をご説明ください。
南京大虐殺は日本の中国侵略戦争の象徴的事件となっている。特に中国にとって、当時中国国民党政府の首都、南京において軍事占領を行った日本軍による大虐殺事件として、国家・民族にとっての屈辱(中国人のいう国恥)として忘れることのできない歴史的事件となった。
一方、戦後日本の自民党政府は、戦前の官僚・軍人・財界人等がそのまま残留しつづけた側面が強く、現在は彼らの息子や孫たちが受け継いで権力の中枢を占めている。そのため戦後の自民党政府と官僚・財界は日中戦争が侵略戦争であったことを認めようとしない。もしも日本国民全体が日中戦争が侵略戦争であったことを認識し、戦争指導者たちの戦争責任を追及するようになれば、彼らは現在のように権力の中枢に居座ることはできないからである。
彼ら戦争責任者とその末裔はテレビ、新聞等のマスメディアを統制する力を持っていて、日本のマスメディアに戦略戦争の歴史を報道させないようにしている。また文科省も教科書検定を強めて侵略・加害の歴史を教科書に記述させないようにしている。一方では、日中戦争はソ連の中国赤化政策から守るための戦争であったとか、欧米の侵略から中国を守るための戦争であったとか、大東亜共栄圏を確立するための戦争であったとか、自存自衛のための戦争であったとか、日本の戦争を肯定、美化する言説を盛んに流布している。彼らにとって、南京大虐殺の歴史事実を国民が認識するようになれば、日中戦争が加害・侵略の戦争であったことを認識することになるので、それを阻止するために南京大虐殺の歴史事実を否定する言説を意図的に流布させているのである。
南京大虐殺の事実を事件後70年もたった現在でも国民の多くが認識していないのは、政府が事実を国民の記憶から忘却させようとしているからである。
質問:近年、修正主義者たちが様々な分野で進めている活動をどう思われますか?
日本では1990年代前半、戦後一貫して続いた自民党単独政権が崩壊したことがあり、非自民党連立内閣が成立したことがあった。非自民党の細川内閣、羽田内閣は日本の戦争を侵略戦争と認め、被害アジア諸国に謝罪する意志を表明した。1994年に成立した社会党と自民党の連立内閣であった村山内閣は、1995年の戦後50年を機会に国会で侵略戦争、植民地支配の反省と謝罪の国会決議を行ない、「過去の清算」に一つの区切りをつけようとした。
しかし、村山内閣の与党であった自民党が、同国会決議は戦死した日本の兵士を「冒涜」し、彼らの死を「犬死」に、つまり「無駄死」であったと断定するもので、彼らの名誉を傷つけるものであると宣伝して、地方の自民党組織を総動員して反対運動を展開した。
この時、自民党と連携して民衆に国会決議反対を呼びかけ、草の根保守主義の大動員に成功したのが右翼勢力で、彼らは1997年に「日本会議」という日本最大の右翼組織を結成した。「日本会議」は自民党国会議員の過半数を支持メンバーに獲得した。「日本会議」につながる歴史修正主義勢力は、1997年に「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」を結成し、南京大虐殺や「日本軍慰安婦(日本軍奴隷)」を否定する教科書の発行を計画し、2001年に発行した。この時「つくる会」の理事となり、広告塔の役割をはたしたのが、漫画家の小林よしのりで、『戦争論』という南京大虐殺を否定する漫画本を出版、65万部が売れた大ベストセラーとなった。
質問:日本の若者は、こうした歴史上の問題をどの程度感じとっていますか?
残念ながら、日本の若者たちの歴史認識問題は貧困な状況にあります。原因はいろいろありますが、一つは日本の学校教育が文部科学省→各県教育委員会→各市町村教育委員会という国家の統制l管理が徹底しており、さらに教員組合の組織と活動も弱体化しており、学校教育において近現代歴史、特に戦争の歴史をきちんと教えられない状況にある。
一つは、日本の国立大学、公立大学が法人化され、かつての大学の自治、大学における学問の自由は大きく損われ、文部科学省の統制が大学にも及ぶようになった。学問的業績主義に走る大学教員が多くなり、歴史研究者も歴史問題で発言しないようになり、侵略・加害の歴史認識問題に対する「歴史家の沈黙」という深刻な状況にある。
一つは、日本のメディアが「第四の権力」という歴史と自覚がなく、商業主義に走り、テレビ・新聞・映画などのマスメディアが歴史修正主義的な歴史認識を流布させる一方、それに対抗して歴史事実を認識させようというメディアは少数である。
さらに日本は、言論の自由を暴力的行為で抑圧する右翼勢力が温存され、活動が放任されているため、南京大虐殺や日本軍「慰安婦」の事実を報道、出版することに対して脅迫まがいの圧力が加えられるため、マスメディア界では自主規制して、こうした歴史問題を回避する傾向がある。
日本の若者に関心を持ってもらうためには、上記の阻害要因を変革していく以外に方法はないのである。
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