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Quartier まちの風景
パリから東に60キロ、
有機農業を営んでいるジルさんを訪ねてみた。
とれた作物はBIOの朝市へ。
パリには、BIO専門の朝市が3カ所ある。
一番古いのが、地下鉄駅Sevres-BabyloneとRennesの間に立つラスパイユの市。後からできて少し規模が小さいのが、地下鉄RomeとPlace de Clichyの間に立つバティニョルの市。バティニョルには地元の人が多い。最後にできたのが、14区のPlace Brancusiに立つ市だ。バティニョルの市のジルさんのお客は、ほとんどが常連。「ラスパイユは客単価が低い。売り上げはバティニョルのほうがずっといい」
この市場にスタンドを持っている人は、野菜を保冷庫に保存する生産者や販売者がほとんどだが、ジルさんは、木金土日に収穫して、そのまま市に持ってくる。「市に出す店の中で、保冷庫を使わないのはうちだけ。採りたてだから、買って家の冷蔵庫に入れたとき、野菜の生命力が長持ちするんだよ」
パトリシアさんは、ジルさんの店の売り子さんで、テキパキ働く、大きな黒い瞳が印象的な美人。毎週野菜を買いにくるたびに口説く男性がいるほどだ。
パトリシアさんは、客の知らない野菜があると、とてもていねいに説明してくれる。ついでに料理方法も教えてくれるから、客はついつい冒険して買ってしまう。
野菜のことをよく知っているので、最初は農家の人だと思っていたが、それにしてはちょっと雰囲気が違う。「普段はメルセデス・ベンツ社の支店で、販売の管理をしている」と、意外な返事が返ってきた。朝市で働くようになったのは5年前だという。失業していたときに、声をかけられた。今の職が見つかってからも、朝市での仕事が気に入って、土日はここで働いている。
農家並みに野菜に詳しいのは、出身地のブルゴーニュで家族が農地を持っていたのと、休暇を利用してジルさんの畑に手伝いに行くからだという。
パトリシアさんのセンスのおかげで、ジルさんのスタンドには、その日の野菜が彩りよく並んでいる。
バティニョルに立つBIOの朝市。
「売り上げはラスパイユの市よりずっといい」とジルさん。
朝市のジルさん。右は、週末にジルさんを手伝っているパトリシアさん。
ジルさんの店の常連客たち。
フランソワさん「家がこの近くで、1989年から毎週通っているよ。最初は値段が高いと思ったけれど、質の良さには代えられないね。買うのはいつもの同じ店だ」
ナディアさん「きょう買ったのはルバーブ。コンポートやタルトにするとおいしいの」
71歳の女性「昔からBIOの市の常連よ。味が違うから、もう元には戻れないわね。でも、BIOのスーパーは、競争相手がないから高くて。今は年金生活だから、たくさんは買えないけれど、少量でも良いものを食べたほうがいいわね」
フランソワさん
ナディアさん
BIOの認証とロゴ
BIOの認証は、費用を払って申請しないともらえない。農作物の場合は、政府の有機栽培規定に従い、2年の転換期を経た農家が対象となる。費用は面積や栽培している作物の種類によって違ってくる。ジルさんは毎年365ユーロを払っている。認定されると、フランス政府の有機認証ロゴの〈AB〉が付けられる。年に1回以上検査が入る。
ジルさんの野菜はレストラン御用達。
昨年ミシュランで1ツ星を獲得した8区のフランス料理店〈ステラ・マリス〉では、10年前からジルさんの野菜を使っている。店の人たちが、毎週バティニョルの市に買出しに行く。「ここの野菜は味が濃いですね。それに、コンフリーconsoude、イラクサortie、ホップの葉houblonといった変わった食材がありますし」と、パリ店の藤本清シェフ。イラクサはどこにでもある雑草だが、ミネラル分が豊富。BIOの市にもめったに出ないため、ジルさんの店では、あっという間になくなる。
イラクサのスープ
イラクサを約二つかみ、ちくちく痛いので手袋をして、丁寧に水洗い。鍋にバターを大さじ1杯とって、イラクサをしなっとするまで5分ほど炒めていく。皮をむいて小さく切り分けたジャガイモ2個とニンニク2片を加え、水(あるいはトリガラのスープ)を1リットル加える。沸騰してきたら、フタをして40分ほど煮込んでいく。最後にミキサーにかけ、塩とコショウで味を調え、好みで生クリームあるいはバターを加える。(このレシピは真)
右がイラクサ。
友人たちとBIOの夕食会。
バティニョルの市に店を出す人たちが、仕事が終わって一杯飲む店が、近くのレストラン〈L'escapade〉だった。ここでは、土曜の昼、BIOの市の食材を使った料理が出ていた。ところが、オーナーシェフが引退して経営者が変わり、ここでの集いは終わる。
ある土曜日、ジルさんは、市の仲間や顧客と一緒に、市の近くのカフェ・レストランでBIOの夕食会を開いた。引退した元シェフが、この日、一日シェフとして腕を振るった。アペリティフはBIOのロゼ・ワインと自家製ポテトチップス。前菜は白アスパラのクリームムース添え、主菜は子羊のモモ肉と軽く火を通した夏野菜、デザートはフルーツサラダ。素材を生かしたシンプルな味付けで、野菜のエネルギーが体にしみわたる。仲間同士で打ち解けて、以前のレスカパードのような和気あいあいとした雰囲気が戻ってきた。
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