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パリから東に60キロ、
有機農業を営んでいるジルさんを訪ねてみた。
畝(うね)の間を耕すジルさん。
「トラクターのような重い機械は使えない。
土が圧縮されて、水が上がってこなくなる」
 BIOの農業者には、家が農家ではなかったという人が大勢いる。ジルさんもその一人で、父はパリ郊外にある列車の車両を販売する会社に勤めていた。パリで生まれ、リモージュ近くの農業高校で畜産を、レンヌ近くの農業高校で野菜栽培を学ぶ。フランスでは1980年に有機農業が国家に認知されたばかりだった。パリ近郊の普通の農家で研修した後、その農家の姉妹が所有する土地を2歳上の兄と借りた。これが21歳のとき。2年後にはその農地を兄弟で買い取った。
 そこが、パリから東に60km、チーズで有名なクロミエCoulommiersの町のはずれにある、1.8ヘクタールの農地だ。もうひとつ、近くの町シャイイ・アン・ブリーChailly en Brieにも畑があり、合計3.2ヘクタールの畑を持っている。
 どちらの畑も、そばに川が流れている。川に通じる自由地下水が上がってくるので、水撒きは必要ない。しかし、そのため、トラクターのような重い機械は使えない。土が圧縮されて、水が上がってこなくなるからだ。あれっ? 2軒先の普通の畑では、スプリンクラーで水を撒いているではないか。「あれは、農業のやりかたがヘタだから」とジルさんは言う。ジルさんのところの農機具はすべて小型だ。草刈機、耕運機、土の攪拌機、ジャガイモを掘り起こして選別する機械、畝(うね)の間を耕す機械を使っている。
 有機農業を選んだ理由は、「化学肥料や農薬を使いたくなかったから」
 1年に180種の作物を栽培する。春の終わりから初夏にかけては、大きなフキのようなルバーブrhubarbe、アーティチョークartichaud、イチゴ、葉の大きいフタンソウblette、ソラマメ、白タマネギなどがとれる。有機農業では、普通の農業よりも種類を多く、量を少なく栽培する傾向が強い。一種類の作物が病気にかかったときに、共倒れにならないようにするためだ。
 雑草もふんだんに生えていて、どれが雑草でどれが作物なのか、植物を知らない人には区別がつかない。ここも普通の農業と大きく違うところだ。もちろん除草するが、あまり気にしない。特に背の高い雑草の一角は「ここには野生の鴨が住んでいるんだ」。だから、わざと残しておく。
イチゴ畑は、地面が黒いビニールで覆われている。あまりBIO的ではないなぁと思って聞いたら、「ビニールではないよ。トウモロコシのアミドンから作った袋で、イチゴの苗の寿命とともにそのまま土に帰るんだ」。イチゴは、ハリネズミやナメクジの大好物だ。
 5月半ばから10月末までが季節のルバーブは、2カ所に植えてある。「病気にかかったとき、一部が離れたところにあると全滅が防げる。ルバーブが多いのは、うちのような湿気の多い土地で育てやすいから」
 植物同士の助け合いも大事にする。ジャガイモ畑の間に、インゲン豆があった。「豆が空気中の窒素を取って、土に定着させるんだ。だから、こうして豆と一緒に植えると、窒素肥料をやる必要がないんだよ」
 化学肥料や農薬を使わずに栽培する知恵が、いたるところに見られる。葉を土の中に入れて腐らせて堆肥を作る。また、5年おきに、馬糞30トンを加える。「牛より馬の糞のほうが、軽くて空気が通るんだ」
 ジルさんの畑には果実類も豊富だ。ブドウの季節に実るモモpeche de vigne、スグリ、フランボワーズ、カシスなど。秋にはクルミも採れる。
 ハウスでは、キュウリ、サトウダイコン、カブ、ナス、トマト、ピーマン、メロンを作っている。
 種はできるだけ自分の畑から採るようにしている。伸び放題のフタンソウは、種子を採るためにわざと残してある。
 消費者の目から見ればBIO野菜は高価だが、BIOの市が唯一の販路のジルさんは言う。「季節によっては、自作農作物だけじゃなくて、よそのBIO作物も売らないとやっていけない。農業者保険に、兄と二人分で月に800ユーロも払わなきゃならないし。だから高いんだよ。BIOの発展のために、政府は、援助金を払うよりもこういう社会保障費を一部肩代わりしてほしいなぁ」
雑草もふんだんに生えている。
「ここには野生の鴨が
住んでいるんだ」



ジャガイモ畑の間に、インゲン豆。
「豆が空気中の窒素を取って、土に定着させるんだ」




みごとなルバーブを手にするジルさん。









ハウス内では、キュウリ、カブ、トマト、ピーマンなどが栽培されている。


まだ実が青いスグリgroseille。


やはりまだ実が青いカシスcassis。


おいしそうに赤く熟してきているイチゴ。


ブドウが熟す季節に実るというモモpeche de vigne。
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