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—パリ16区にある私有のワイン畑—
イル・ド・フランス産ワインの記憶を求めて。
 そびえ立つのは窓がいくつも連なる白い豪邸。広大な庭には400本のブドウの株。こんな家に住めるのはどんな悪どいことをした人なのか楽しみに待っていたら、現れたのは物腰柔らかな紳士。思わず自分の黒い心と汚い靴を恥じる。本日は、ワイン年間消費量が一人80本という偉大な呑んべい国家に敬意を称し、ブローニュの森の中にある私有ブドウ畑を訪れた。紳士グザヴィエさんは語る。「かつてイル・ド・フランスはワインの大産地。4世紀頃から発展し、ルイ14世の頃には4万ヘクタール以上のブドウ畑がありました」。現在ボルドー地方のブドウ畑が1万ヘクタールだからその規模がうかがえる。「私たちはイル・ド・フランスのワインの歴史を伝えるため、教育的見地からパリにブドウ畑を作ったのです」。でもここはブローニュの森だから「ブローニュ市」では?「ブローニュの森は行政上はパリ16区です」。えっ? 腑に落ちぬまま地図を眺めると、本当だ。意外な事実に少々驚く。
 「こちらへどうぞ」。グザヴィエさんの後を追いブドウ畑へ。若々しい緑の葉は太陽の光を一身に浴びようと手を広げている。「かつてワインは修道院内での栽培が活発で、特にサンジェルマン・アン・レーの修道院は名声を誇りました」。ところがモントルイユの桃と同じく(597号参照)、イル・ド・フランス産ワインは鉄道の発達により壊滅的なダメージを受ける。地方産ワインが一晩で運ばれてくると人気が急落。さらに追い打ちをかけるように、アメリカからネアブラムシ病が持ち込まれ、ヨーロッパ全土に深刻な被害をもたらす。「もともとアメリカの品種は害虫に免疫のあるものでした。だから見て下さい。今もたいていアメリカ品種の台木の上にヨーロッパ品種のブドウが接ぎ木されていますよ」
 さて早速試飲といきたいが。「まだ早いです、今秋が初収穫です。それに一般販売はほとんどできません」。それは残念。敷地の関係で年間250〜600本くらいしかワインが作れないのだそうだ。「でも定期的に見学会を実施しているのでまた遊びにきて下さい」。そして手の甲にビズ。おっ、ちょっとお姫さま気分。やっぱり骨の髄まで紳士なグザヴィエさんであった。(瑞)








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