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おばあちゃんが一肌脱ぐ。
"Irina Palm"
 マリアンヌ・フェイスフルといえば、60年後半のロンドン・ロック・シーンのミューズ。キース・リチャーズ&ミック・ジャガーがプレゼントした『アズ・ティアーズ・ゴー・バイ』の澄んだ歌声、そしてアラン・ドロンと共演した『あの胸にもう一度』で素肌に黒い皮ジャンをまといハーレーダヴィッドソンで疾走する大胆な姿をもってして忘れがたい存在。って筆者の年齢がバレるが…。とにかく金髪でスレンダー可憐といった形容詞がふさわしかった彼女が、60歳になった今、もうスレンダーとはいえない体型を隠さず、可憐さの面影はあるものの年相応の肌をさらして、いやその年輪があってはじめて可能な『Irina Palm』役に挑む。イリナ・パルムというのは源氏名(!)で、実生活ではマギー。小市民階級の典型的なおばあちゃんである。近所のご婦人たちとポーカーに興じ、息子と嫁と孫にとっては良きおばあちゃん。物語のプロットは、この孫が重病で余命いくばくない。助かる可能性は唯一、オーストラリアの病院で手術を受けること。しかし、この家族にそんな金はない。そこでおばあちゃんが一肌脱ぐ。この一肌の脱ぎ方がなんとも…、セックスショップに就職するのである。それも…(ディテールは見てのお楽しみということで割愛)。
 前半の孫の命を救うためならというお涙ちょうだい路線から、裏社会の実態、そしていくら愛する自分の息子のためとはいえ母の行動を許せない息子との葛藤、そして最後はおばあちゃんのラブロマンスへと軌道修正してゆく。テーマは最終的に、60歳の目覚め!? 平均寿命が延びた今、年相応になんて考えて行動してると損するかも知れないです。監督は、前作『Le Tango des Rashevski』でもそこそこ評価を得ているベルギー出身のサム・ガルバルスキ。(吉)

Kad Merad (1964-)

 昨年は6本、今年はわかるものだけですでに9本の映画出演作を数えるカッド・メラ。43歳にして彼の突出した活躍ぶりは、売り出し中の若手スターも敵ではない。現在フランスでは、不条理冒険コメディ『Pur Week-end』が公開されたばかりだ。
 出身はアルジェリアのシジベルアッベス。中学3年の時に学校で開催された演劇コンクールで拍手喝采を受け、人を笑わせる喜びに目覚める。思春期の頃からロックバンドを組んでいた彼は、91年にロック専門ラジオ番組Oui FMのパーソナリティに。そこでコミックユニットのパートナーとなるオリヴィエ・バルーと出会い、〈カッドとオリヴィエ〉を結成する。テレビでも人気を博した後は、徐々にソロでも映画界に進出するようになる。特に役者として転機となった作品が『Je vais bien, ne t'en fais pas』。お茶目なイタズラおやじのイメージを覆し、息子が失踪した家庭の大黒柱として、混乱する娘に対峙するシリアスな父を演じきった。本作品でセザール賞最優秀助演男優賞も受賞。「僕はミスフランスのようにこの一年間は受賞を祝い続けるよ」と喜びを隠さない。
 今後は彼が最も好きだというジェームズ・スチュアートのように「軽さ」と「深み」が自然に同居する役者として才能を開花させてほしい。(瑞)


●Jesus Camp
 アメリカのノースダコタ州デビルス・レイク。不吉な名を持つ湖のほとりで、毎年開催されるキリスト教原理主義者のサマーキャンプの様子を、二人組の監督ハイジ・ユーインとレイチェル・グラディがカメラにおさめる。
 「イスラム教のように、宗教のため命も捧げられる戦士を育てたい」。熱狂的に息巻く女の牧師は、信者の脳にキリスト至上主義の回路を植え付ける。参加者は失神して転がり、陶酔の涙を流す。真実の教えに守られているという自信が、彼らを堂々とさせる。驚くほど献身的な彼らの多くが、まだ年端もいかない幼い子供。洗脳のプロセスまでつぶさにわかる恐ろしい作品だ。(瑞)

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