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リアリズムはもうたくさん。"Mon fils a moi "
 マーシァル・フージュロン監督『私の息子 Mon fils a moi』は、昨年のサンセバスチャン映画祭で伏兵的に出現してグランプリと主演女優賞をかっさらった。
 フランスでも、特に日本でも理由不明の家庭内暴力による惨劇の報道が後を絶たないが、この作品はそういった事件の裏側=内情を描いている。描かれる家庭はむしろ日本的な風情…一見何の変哲もない中流家庭で、父は仕事第一主義、母は専業主婦、大学1年になる娘と小学校高学年の息子がいる。女優賞の常連、ナタリー・バイ演じる母の、息子に対する異常な愛情というか独占欲がやがて悲劇を生むのだが、そのエスカレートの過程と息子の戸惑い、父(お馴染み、オリヴィエ・グルメ)の事なかれ主義で利己的な態度、弟の唯一の理解者である姉の無力感、ストーリーは、こういった悲劇に至るまでの要素と土壌を論理的に構築することに専念する。観客は、まだいたいけな息子に感情移入してハラハラドキドキ、そしてイライラすることであろう。ただ、観ていて何か不快感がずっとつきまとった。その原因は、気持ち良いわけがない話を見せられているというだけでなく、あり得そうなことを丹念に再現して何が面白いのだろう? という疑問につながった。この映画は社会考察的な意味で存在意義があるのか? しかし、映画を観る愉しみをこの作品は与えてくれない。これは決定的な欠如だ。
 例えばデヴィッド・リンチの『Inland Empire』を観よ! そこには逆に映画を観る愉しみのみが存在する。物語とか何やらの考察を超越した映画の魔術に我々は酔いしれることになる。また例えばフランソワ・オゾンの『Angel』の50年代ハリウッド映画のような誇張には、映画の愉しみへの追求が感じられる。リアリズムはもうたくさんな(吉)。






Mathilde Seigner (1968-)

 いわゆる「銀幕のスター」が観客を映画館に呼び込む時代は終わった。とはいえ現在、かつてのスター然とした煌めきとは違った存在感でヒットに確実に貢献する役者がいるのも事実。マチルド・セニエはそんな女優の筆頭として、混沌たるフランス映画界に涼しい顔で仁王立ちする。目下、フランスでは馬と競演の新作『Danse avec lui』が公開中だ。
 祖父は往年の名優ルイ・セニエ、姉はロマン・ポランスキーの妻で女優エマニュエル・セニエ。血筋に従うように名門演劇学校Cours Florentに入学するも、態度が悪いためすぐに退学となる。だが彼女の演技は、手垢にまみれた演劇メソッドとは一線を画す「場の化学反応」ともいうべき動物的なもので、それは学校上がりの大根役者の嫉妬を煽るのに十分なものだ。代表作は『エステサロン/ヴィーナス・ビューティ 』、『ハリー、見知らぬ友人』、『Une hirondelle a fait le printemps』など。そして昨年の大ヒット・コメディ『Camping』も忘れずに。
 「俳優でいるには“私は左派”と宣言しなきゃいけないみたい。私は右でもないけど、左は絶対イヤ!」と、いつも歯に衣を着せぬトークが口から飛び出す彼女。そんな態度はメディアからは貴重な存在と尊ばれ、庶民からは共感を呼ぶ。(瑞)


●La Mome
 不世出の天才歌手エディット・ピアフの伝記作品。たしかにドラマティックではある。だがクライマックスに向かい映画の山場が周到に用意されたデフォルメ人生とは違う。幼少時代、街頭で歌っていたころ、現役スター時代、晩年と、時間軸を超え行きつ戻りつしながら、象徴的なエピソードが紡がれていく。それはまるで死に際に走馬灯のようによみがえる、一人の人間の鮮やかな生の記憶に立ち会っているような印象だ。人生の大波小波も祈りとともにすべて受け入れ、浜辺で静かに編み物をする晩年のピアフの後ろ姿が忘れられない。
 監督は、目下本作の成功で株が急上昇中のオリヴィエ・ダアン。(瑞)

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