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1台のモビレットのために。"La raison du plus faible"
 1台のモビレットをめぐる夫婦の対立が哀しい。失業中の夫パトリック(エリック・カラバカ)は良き主夫。工員として働く妻キャロル(ナターシャ・レニエ)が家計を支える。彼女が通勤に使っていたモビレットが壊れる。が、買い換える余裕がない。見かねた妻の父がモビレットをプレゼントする。それを頑なに拒む夫。男のプライドが許さないのだ。これが原因で夫婦関係は崩れ、名誉回復のために夫はついに強盗まで働く、1台のモビレットのために…。

 これが『La raison du plus faible』のメイン・プロット。戦後イタリア・ネオレアリズムの秀作『自転車泥棒』にも通ずるテーマだ。弱者はいつの時代も弱者なのだ。しかも金がオールマイティーな印象を与える(特に日本がそうだけど…)最近のこの社会。金はある所にはいやという程あり、ない所にはいつまでたってもない。金は天下の回りものだし、ある所から失敬しても"ええじゃないか"的な発想も生まれようというものだ。こうしてパトリックとその仲間は強盗を敢行する。
 監督のリュカ・ベルヴォーは俳優出身。今回もパトリックとその仲間が強盗を思いつくきっかけを作るムショ帰りを演じている。唯一その道のプロである彼は、鬱屈するパトリックとその仲間たちのために一肌ぬぐもののリスクを察知して実際の強盗には参加しない。しかし…。これから観る方のために書きませんが、刹那的で象徴的なラストが印象的で美しい。このラストは実際に映画を撮影したベルギーのリエージュで起きた事件をもとにしていると監督は語る。リュカ・ベルヴォーはこの地方の出身。ダルデンヌ兄弟しかり。最近、ベルギーから社会に問いかける優秀作が生まれていると思う。同作品も今年のカンヌ・コンペ出品作。(吉)
●Lucy
 18歳のマギーはリュシーという赤ん坊の母親。父親のないリュシーを育てることへの重荷、そして自分の青春は…。「ドイツ映画の新しい波」といわれるへナー・ウィンクラー監督の長編第2作。マギーが少女から大人に生まれ変わる様が見事に描かれる。(海)


Natacha Regnier (1972-)

 ブノワ・ポールブールドやセシル・ド・フランスと並び、フランスで活躍を続けるベルギー出身俳優の一人、ナターシャ・レニエ。子供のころ、映画『ロバと王女』のカトリーヌ・ドヌーヴを見て、映画に憧れたという。地元で演劇の勉強をしていたが、96年、パスカル・ボニツェール作品『Encore』の恋する女学生役で、役者としてのチャンスをつかむ。そして早くもその2年後、エリック・ゾンカの『天使がみた夢』への出演で、エロディー・ブシェーズとともに、カンヌ映画祭最優秀主演女優賞を獲得。
 だが早過ぎる名声に惑うようなこともなく、自分の意志を大切にし、「(作品選びには)リスクを冒すのが好き」と、ユージェン・グリーン監督『Le Pont des arts』やジャン=ピエール・リモザン監督『カルメン』など、実験的な映画に進んで出演する。芸術分野の不定期労働者intermittent du spectacle支援のためのCM無料出演など、弱者への協力を惜しまないのも寛大な彼女らしい。2002年には、映画『アメリ』の音楽でも知られるミュージシャン、ヤン・ティルセンとの間に女児を出産。現在、映画『La Raison du plus faible』では、貧困から強盗に走る男の妻として登場し、得意な薄幸女を自然体で演じている。(瑞)

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