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パリの地下が気になる
終電後、地図にない駅をめぐる「メトロの一夜」が楽しい。
 ポッポー! 汽車を思わせる威勢のいい警笛が響く。200人の乗客を乗せ、30年代製の地下鉄スプラーグ号が走り出す。時計の針は0時15分。これから朝5時まで地下鉄に隠された名(迷)所を巡るのだ。ラ・ヴィレット近くのパリ市交通公団RATPの作業所から出発し、すぐに通常の地下鉄の線路に合流。終電前なので、何度か普通の電車とすれ違うのだが、その度に事情を知らぬ人たちがこちらを指差し目を丸くする。そして終電が去りパリが眠りにつくころ、本当の旅が幕開ける。
 われらが目指すのは地図にない無人駅だ。パリの無人駅は全部で11カ所ある。例えばセーヴル・バビロン駅に近いクロワ・ルージュ駅やストラスブール・サンドニ駅に近いサンマルタン駅。両駅とも第二次大戦が勃発した1939年に閉鎖した。クロワ・ルージュ駅は落書きだらけでお化け駅の風格を漂わせる。サンマルタン駅は当時の広告がきれいに残る。陶製のパネルの上に描かれたジャベル液(漂白剤)やマイゼナ(コーンスターチ) の広告は、芸術作品のように今も輝く。また1942年に封鎖された旧5号線終点北駅。こちらは目下、運転手の卵たちが試運転をする場として機能する。見た目は全く普通の駅。この駅で、参加者たちに眠気防止のシャンパンがふるまわれる。
 一方、一度も使用されたことのない不幸な駅もある。ポルト・モリトール駅は9号線と10号線をつなぐ存在となるはずが、計画がとん挫。今では外への出口がないホームが寒々と広がるだけ。だが、手回しオルガンのおじさんが登場し音楽を奏で始めると、歴史から葬られた空間に突如温かい明かりが灯る。他にも、CMや映画の撮影など特別な機会のみに使用されるポルト・デ・リラ駅も。映画『アメリ』もここで撮影された。ぜひ寄りたかったが、今回は残念ながらコース外。しかし、地下鉄の真下に潜ったり、レールの上を歩 いたりと、普段は不可能な体験を満喫できた。
 この粋な深夜の地下鉄トリップ「メトロの一夜」を企画するのは、ADEMASという協会。参加者から得た収益は古い車両の修復に充てている。協会の人はみなボランティアで、生粋の地下鉄好きが集う。彼らが5時間ノンストップで行うレクチャーに耳を傾けていれば、眠気も吹っ飛ぶというもの。歴史的建造物に指定されるスプラーグ号や無人駅も味わい深いが、彼らの地下鉄へのまっすぐな愛に一番しびれた夜だった。(瑞)


Une Nuit en Metro / ADEMAS (Association d'exploitation du matriel Sprague)
01.4825.1332(要予約。通常数カ月待ち)

顧客は主に企業委員会がお膳立てしたグループ客だが、個人参加も可。参加費は応相談。バカンス時期をのぞき毎月1回実施。23hにラ・ヴィレットにあるRATPの作業所に集合。1時間ほど作業所の説明を聞いた後、0h15にスプラー グ号が出発。朝食付き。



〈パリの地下が主役のバンド・デシネ〉
 お化けが恐い? 靴を汚したくない? パリのカタコンブでさまよい11年後に白骨化して発見された不幸な門番のようになりたくない? ならば、1967年発行の BD-polar(推理ものコミックス)の古典『 l'Affaire du Collier』を手に取ろう。作者のエドガー・P・ジャコブズは、タンタンでお馴染みのエルジェの後を継ぐ「明るい画線派 lignes claires」に属したベルギーBD界の巨匠だ。
 さあ、工作員ブラック&モルティメールとともに、王家の首飾りを盗んだオルリック大佐を追い、パリの地下20mの世界へ潜ろう。犯罪者は追っ手に罠をはる。我ら二人のヒーローも、やがて迷宮に仕掛けられた罠に足をすくわれるだろう。リアリズムに満ちている。ジャコブズは石切場検査員らと実際にカタコンブを観察したり、地下で起きた事件を積極的にシナリオに活かした。だから地下道の印や道の名前、検査員の制服、地下道の様子なども実にリアルに描かれる。熱心なカタフィルによって作られたインターネットのサイトでは、本作と実際の地下や建物の写真などが比較されている。(http:// betm.lhermine.com/
 加えて本作は、パリの地下を主役に据えた物語として巧妙だ。恐怖すら愉しみにして地下倉庫を探検した子供時代の遊びを思い出させるが、同時に、もう一つの見えない現実を暗示する。地下ではゲームの規則は反転し、悪者は捕まらない。陰気なカタコンブでは、ネズミのように動き回る犯罪者が自由を享受する。彼らが捕まるのはあくまで地上なのだ。
 思えばジャコブズの作品には、「地下」がライトモチーフのように繰り返されてきた。地下倉庫、秘密基地、クレバス(亀裂)、洞窟、狩猟用の落とし穴など。一貫して地下に固執し続けたのは、彼が小さいころ、伯父さんの家の井戸に落下したという強烈な体験があるからとかかもしれない。(alex)
Edgar P. Jacobs
"l'Affaire du Collier"
Blake et Mortimer社。
13euros。

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特集表紙
パリの地下世界は歴史からして奧が深い。こんな場所から攻めてみよう。
終電後、地図にない駅をめぐる「メトロの一夜」が楽しい。


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