パリ市内で唯一シュタイナー教育を実践している私立の託児所「Le jardin d'Eglantine a Paris」を訪ねた。現在ここに通う子供は2歳児クラスに13人、3〜5歳児の混合クラスに16人。フランスはもちろん、ヨーロッパ近隣諸国、アメリカ、オーストラリア、レバノン、フランスと中国のハーフとさまざまな国籍の子が通う。残念ながら園の方針で子供たちの様子は見学できなかったが、園長先生が園内を丁寧に案内してくれた。
メインの遊戯室に入ると暖かい雰囲気に体が包まれる。まるで童話に出てくる森の小人たちの部屋のよう。松ぼっくりや貝殻、毛糸のぬいぐるみ、木製のパズルや自動車と、天然素材の玩具が集められる。先生のお手製のものも多い。そしてついたてには、優しい色使いの木綿の布がかけられている。「子供たちはこの布をマントや敷物に見立て、自由に遊びます」と先生。壁に目をやると、濡れた画用紙の上で描く「にじみ絵」と呼ばれる水彩画が展示されている。シュタイナー学校が取り入れていることで有名な画法だが、淡い色彩が輪郭のないままにぼんやり広がっている絵は、眺めていると夢心地に誘ってくれる。この空間で子供たちは毎日どんなことをしているのだろう。「曜日により定められた活動があります。月曜は菓子作り、火曜はデッサン、水曜は粘土、木曜は音楽、金曜はお話を聞くなど」。また特別なお遊戯としてronde(ライゲン)というものがある。これは、子供たちが輪になり、季節の詩や歌などに合わせイメージを体で表現していくもの。「例えば、今日は“砂浜”がテーマなら、子供たちは熱い砂浜の上から徐々に海に入り、泳ぐまでを体現します」。シュタイナー教育においては、歯が生えかわる7歳以前は健全な体と感性の発達に重点を置き、文字や数などの知的なことは教えない。そのかわり自然の物が持つ美しさや四季の移ろいといった本質的なものに目を向けさせる。子供たちは目の前に溢れる自然から生命力をたくさん吸い込み、心身とも健やかに育っていくのだろうか。
さて、以前本で、「シュタイナー教育では、幼児に直角は刺激が強いので、テーブルは丸テーブル、画用紙は四方の角を切り落としたものを使う」と読んだのだが、ここではそこまで徹底されていない。「フランスは宗教から独立した学校を好む傾向があります。シュタイナー教育は特殊なため、一部の人からセクトよわばりされています。例えば画用紙の角を切るというようなことは、フランスの保護者の方からは反発を受けるかもしれない部分で、あえてそこまで徹底しません。現実を鑑みて、できるところから実践しています」とのこと。この国においてシュタイナーの教育理念を掲げるのは、意外にも大変困難なことだそう。そんな状況下で四苦八苦しながら、自分の信じる最良の環境を模索する先生の姿に、心を動かされた。(瑞)
*Le jardin d'Eglantine a Paris
165 bd Brune 14e 01.4543.5889
*パリ郊外には、託児所から高校まであるシュタイナー学校が2つある。
- Ecole Perceval de Chatou
5 av. d'Epremesnil 78400 Chatou
01.3962.1664
- Ecole de Verrieres
62 rue de Paris
91370 Verrieres-le-Buisson
01.6011.0353